畠中恵『ねこのばば』『おまけのこ』

 
若旦那は病弱で、周りに助けられてばかりの、どこか浮世離れしたお人好し。
その若旦那が江戸に住む、身の回りの妖怪らとともに事件を解決していく、
という感じのシリーズです。
 
不思議なお江戸、としか言いようの無い、とても可愛らしい幻想的な世界が良い。
ほっこりした気分になります。
 
また、この若旦那、
そういうもともと「浮世離れした人」という扱いなのかと思っていたのだけれど、
きちんとなんでそんな人間になったのか、という話がここらの話で扱われています。
 
もともと不思議な人なんだよ!ってだけで、浮世離れしたキャラクターを描くのはよく見るのだけれど、きちんと納得させてくれる成り立ちを描いてくれたのは、とてもいいなあ、と思いました。
生まれとか先天的内容だけじゃなくって、その人がどう生きてきて、どう思って、そうなったのかってことをしっかり描いてくれてます。
 
当初、若旦那のことを典型的な浮世離れボンボンキャラじゃねーか、
説明不足だなぁ、とか思ってました。。なさけねぇ。。
 
 
さて、この「ねこのばば」「おまけのこ」の中では、
おまけのこに収録の「こわい」が突き抜けてすごい話でした。
 
「怖い」の語源となったとさえ言われる、妖怪狐者異(読みはこわい)という妖怪を扱った短編です。
 
外見は、貧相な小男にしか見えないその妖怪が、
なぜそれほど恐れられるのか。
ある事件の謎解きとともに、それが語られます。
 
本当に切なく、やりきれない話。
これほど悲しい余韻を残す話は、なかなかない。
なんというか、感情のツボを深く突き刺す、技あり!って感じの短編です。
ラッキーパンチじゃなくって、本当に狙いすました一撃を、いいところに入れられた感じ。
 
この心地よい、やられた感は久々に味わったなぁ。