上橋 菜穂子「獣の奏者 (4)完結編」

獣の奏者 (4)完結編

獣の奏者 (4)完結編

“『獣の奏者』圧倒的な筆力でいよいよ完結!” 降臨の野からエリンはどこへ向かったのか。人と獣という、永遠の他者どうしが奏でる未知の調べが響いたとき、この世に何が起こるのか。待望の続編2冊同時刊行!

王獣たちを武器に変えるために、ひたすら訓練をくり返すエリン。―けっしてすまいと思っていたすべてを、エリンは自らの意志で行っていく。はるか東方の隊商都市群の領有権をめぐって、激化していくラーザとの戦の中で、王獣たちを解き放ち、夫と息子と穏やかに暮らしたいと願う、エリンの思いは叶うのか。王獣が天に舞い、闘蛇が地をおおい、“災い”が、ついにその正体を現すとき、物語は大いなる結末を迎える。

:アマゾン紹介より引用

感想

獣の奏者(3)〜(4)」の感想をまとめて書きます。
 
この「完結編」を読み終わって、獣の奏者
俺が今まで読んだ小説の中でも最高に大好きな作品となりました。
これほど厳しく、そして真正面から「人という生き物の性」に向い合って、
なおかつ描ききった本を、僕は他に知りません。
それも、子どもが読める様な、平易な表現で。
 
偏見かもしれませんが、「児童文学」、そして「ファンタジー」は、忌避されることが多いジャンルかと思います。
こんなとんでもない本がジャンルが好みじゃないんだよね、なんてだけで読まれないのは本当にもったいない!
 

■完璧な作品の完璧な続編

獣の奏者」は、
第1巻「闘蛇編」、第2巻「王獣編」の全2巻として発売された作品です。
それがアニメ化に伴い、第3巻「探求編」、第4巻「完結編」が発売されました。
 
この手の追加エピソード本は、ファンサービス的なもので、
登場人物のその後をちょっぴりのぞき見、てなものになることが多い気がします。
しかし、この獣の奏者の3〜4巻はそりゃもうガッツリみっちり、無駄なくエピソードが詰め込められています。
 
元々、「獣の奏者」は2巻で綺麗にまとまっていた作品です。
だからこそ、「付け足すことによってこの絶妙な構成が崩れてしまうんじゃないか」
という心配がありましたが、それは杞憂。
それどころか、「本当にこの3〜4巻でこそ、獣の奏者は完結するのだ」とさえ思っています。
 
無駄のないロジックを見て、プログラマが美しい、と感じるように、
本好きはこの本を読めばきっと、あまりに無駄がない構成に美しさすら感じるはず。
 
1巻冒頭のエリンが母と別れることとなる「あの事件」から、
この物語で描かれてきたすべてが集約する、あの凄絶なラストシーン。
全てはここにつながった!という盛り上がりはもう、ぜひ一度読んでくれ!
と声を大にして叫びたい 笑

■「人と獣」から、「人と人」へ

獣の奏者」2巻のラストでは、
人と獣(王獣)は、決して完全には分かり合えないけれど、
意思を通わせるということができる、ということが描かれました。
その反面、「人の群れはなんと愚かなのだろう」と、
厭世的な雰囲気さえちょっぴり漂っていたのです。
 
その2巻のラストからの12年後、
結婚し、子供を持ったエリンが至った答えは
シンプルながら感動的なものでした。
 
その答えは、文章にしてしまうとちょっぴり陳腐な、よくあるものではあるのです。
たぶん、背景を読まず言葉としてみれば、「ふーん」、ってなもんだと思います。
 
ただ、こエリンの人生を体験してきた読者にとっては、
「こういう答えを持てたのか、本当に良かった」
と心底嬉しく、そしてぞくぞくふるえるような、そんな答えなのです。
 
この物語で起きた様々な事件は、みんなこの「答え」につながっていたのだ、
と、読み終わった後様々なシーンが頭に浮かびます。
 
そして、その「答え」の結実とも言うべき、感動的な後日談をまた思い出して、
じんわり涙ぐんでしまうのです。

ああ、いい本を読んだ!