三崎亜記「失われた町」

「ひとつの町に住んでいる人が消滅する」ということが度々起こる世界が舞台。
 
舞台が舞台だけに、この小説では何かを「失った」人々が、
喪失から如何に立ち直っていくのか、というところが描かれます。
 
何かを失って、それを埋めようと足掻くってのは、
割とみっともなかったり、汚い部分がでたりして当然だと思うのだけれど、
この小説ではひたすら大昔の悲劇の主人公みたいに
まっすぐ前をみて乗り越えようとする人"しか"いない。
 
違和感がない、と言えば嘘になりますし、
あんまりにもフィクションくさくってはいりきれないな、
と思うこと結構ありました。
 
不自然に綺麗な喪失モノ、ってのが個人的な印象かな。
後、どこかで見たような。。。って描写や設定が結構ある。
 
正直、潤の設定なんてびっくりするくらいマンガチックな「天才キャラ」だし、
音楽の描写の突拍子もなさは引き笑いしちゃう人もいるんじゃないか。
 
でもそれなのに、どうもぐいぐいと読ませる。
引きがものすごく強くて、一気に読ませる何かがある。
 
 
話一つ一つの構成も面白いし、全体の構成も良い。

それに、一つ一つの話が、とにかくこゆい! 
 
九龍城を思わせる一風変わったルールに支配された無法地帯。
どこか昔のSFを思わせる退廃的なクラブ。
多重人格の人間が"分裂"する現象。
失われた町を「穢れ」として忌み嫌う人々との軋轢。
みたいにどんだけ詰め込んでんだよ!と言えるような、
多種多様なネタを詰め込んでいます。
 
おいおい流石にそれはちょっと。。と思うシーンもあるのだけれどw、
最後までぐいぐい、と読ませてくれる。
 
荒削りなのに面白い。
そういう底力を感じるお話でした。
 
これで、もっと洗練されるであろう次作はどうなるんだ!
ってすごく楽しみ。