柳 広司 「ジョーカー・ゲーム」

全5編の連作短編小説。
題材は戦中のスパイ養成学校でのスパイ(候補生)らの諜報活動について。
軽くさっくり読めるエンタメ小説でした。
 

特徴

・騙し、騙されの頭脳戦
・化け物じみたスパイ多数
・当時の雰囲気をうまく匂わせてる
・楽しくさっと読める(通勤途中なんかに読むには最適かも)
・ただちょっと早く読めすぎるかな(ボリューム不足の感あり)
 

気になる文章

とにかくこの小説はスパイが格好良い。頼むところは己のみ、というスパイたちの性質を現している箇所を抜粋。

天皇制の是非を議論しているスパイ候補生ら・不敬だとそれに憤る軍人への、
結城中佐(諜報機関の長)の発言。

「金、名誉、国家への忠誠心、あるいは人の死さえも、全ては虚構だ」
  略
「諸君の未来に待ち受けている真っ黒な孤独。その中で諸君を支えてくれるのは、外から与えられた虚構などではありえない。諸君が任務を遂行するために唯一必要なものは、常に変化し続ける多様な状況の中でとっさに判断を下す能力――即ち、その場その場で自分の頭で考えることだけだ。天皇制の是非、大いに結構。徹底的に議論してくれたまえ」

 
スパイ候補生らを評して。

 この連中を動かしているものは、結局のところ、
 ――自分ならこの程度のことは出来なければならない。
 という恐ろしいほどの自負心だけなのだ。