サンデー連載の「魔王」が楽しい

 伊坂幸太郎の小説「魔王」が、サンデーで漫画化され連載されています。 
 伊坂作品に共通であるのは、人の生死を恐ろしく淡々と描くのになぜかユーモラスであること。悪事を行おうが全く良心の呵責を感じない、飄々とした悪党を描くのが本当にうまい作家だと思います。
 
 その作家の作品を少年誌で漫画化するか!?と最初おどろいたのを覚えてます。
 
 原作の話から大きく逸脱しているにも関わらず「面白い」という話を聞いて、今日読んできました。
 
 以下感想。
 超面白い。いやほんとにすいませんでした、おみそれしました、という感じです。まさかこう少年漫画化するのかよ!と。
 まさか、伊坂作品オールスターズを漫画でやっちまい、なおかつ持ち味を損なわず少年漫画として描くなんて離れ業をやりとげるとは!
 
 ただ「三十歩以内の人間に念じた言葉を話させることができる」という超能力を持っただけの高校生が、頭脳を使い、強大な権力を持った「敵」に挑んでいく。
 これだけ聞くと、ああ典型的なジョジョ風能力バトルものだなぁ、という感じですよね。
 そこに伊坂作品の独特の乾いた世界観・倫理観のかけらもない悪党どもを加え、その持ち味を損なわぬよう、少年漫画として描ききる。
 もとの話とは大幅に変更が加えられているのに、確かにこれは伊坂作品であり、かつ非常に楽しい少年漫画でもあるなんて、もうね、すごい!としか。
 
 また、伊坂幸太郎の小説「グラスホッパー」とのクロスオーバーは度肝を抜かれました。
 もともと伊坂作品は、他の伊坂作品の登場人物がひょっこりちょっぴりでてくるのが魅力のひとつなのです。ああコイツあの作品の登場人物じゃん!と、既読者にはわかる程度に出すことがあります。
 あくまで原作では「におわすだけ」なのですが、漫画版「魔王」では、槿、鯨、蝉なんかがもうそれはガッツリでてきます。魔王の漫画化、というよりは、「魔王」と「グラスホッパー」のクロスオーバー二次創作漫画、といった方がおそらく適当ではないか、と思うほど。
 
 もと作品を知らなくても十分楽しめ、知っているならその奇跡的なリミックスっぷりにうなることになる秀作ですぜ。