虎よ、虎よ!

時間のあるうちに読みのがしてるSFでも読んでみるかと、機会があれば読んでみたいリストに入っていた本をちょこちょこ買っては読んでいます。
 
「虎よ、虎よ!」アルフレッド・ベスター
 
人類が思い描く場所へテレポートできる能力「ジョウント」を手に入れた未来が舞台。
履歴書にはどれほどの距離をジョウントできるかがTOEICの点数のように記載され、非近代的な交通手段を使うかが金持ちの証となっています。こういった個人の生活の変化だけではなく、この能力の登場により社会のルール・倫理は恐ろしく変動します。
そんな「奇形と、怪物と、グロテスクの時代」の、ある男の復讐劇を描いたのがこの物語です。
 
文体こそいかにも海外古典SFの翻訳、という感じで、――というか事実そうだから当然なんですが――、この手の文体を読み慣れていないとすこしつらいかもしれません。
 
ただ、この内容は今でも色あせないおもしろさがあります。中盤がすこしばかり冗長に感じましたけど、序盤の引き込み、終盤のスピード感は本当に素晴らしい。
 
ただの平凡な一労働者だった男が熱病に罹患したように復讐に囚われ、全能力を注いでそれをなそうとするその姿に、薄暗い憧憬を覚えてしまうのは俺だけではないはず。復讐なんて真っ当な手段ではないし、許されることではないのだけれど、この主人公の圧倒的な熱量にはただただすげえ!と感服するしか。
 
そのクソ熱い復讐劇が、ホントに半世紀も前(発刊1956年)なのか!?という練り込まれた設定の上でやられるんですからもうたまらん(笑!
 
海外SFに免疫のある人にはぜひ!の名作でした。
 
個人的には奥歯に仕込まれたスイッチをカチリと噛むと加速する、なんて描写があってびっくりしました。
ジョーの能力はこの本からだったのか!